特集

2021.12.16

水洗いできる丹後ちりめんのストール filtango

ぽこぽこ、ふんわりとした凹凸のある生地の表面が、自然の光を受けてその色の鮮やかさを増し、パッと明るい華やかさを放つfiltango(フィルタンゴ)のストール。さらりと軽く、肌馴染みの良い感触と風合い。長い歴史を持つ「丹後ちりめん」の新たな表情を生み出すのは、京丹後市出身でfiltango代表の山根ちさとさん。小さな時から機音に親しんでいたが、特に気に求めていなかったシルク生地。ただ、デザイナーとなって改めてちりめん生地に出会ったときは「運命さえ感じた」という。山根さんはこれまで、有名ブランドや大手アパレル企業で"水洗いができる"ニットデザインを手掛けた後、現在は独立し、京丹後と千葉県の2拠点を行き来して活動している。山根さん自身のキャリアの中で培ってきたノウハウを最大限に生かした、日常の中に取り入れられるデザインと機能性を持った丹後ちりめんの商品作りについて、お話を伺った。



filtango(フィルタンゴ)代表の山根ちさとさん
filtango(フィルタンゴ)代表の山根ちさとさん


ニットデザイナーとしてのキャリア、丹後ちりめんとの出会い

山根さんは大学、専門学校にてデザインと服飾を学び、有名ブランドのニットデザイナーとして就職。デザイナーとして、糸を作っている現場、織っている現場、縫製する現場へと足を運び、それぞれの現場にいる職人さんと納得いくまで対話と試作を繰り返し、商品を生み出す仕事に魅了され引き込まれていった。少しずつ培われる職人との阿吽の呼吸のようなコミュニケーションに、何よりのやりがいと楽しさを見出した。山根さんはその後、中国への留学や転職を経験するが、「現場に足を運び、現場の職人とものづくりしたい」をという思いから、ニットデザインには常に携わってきた。
 山根さんが丹後ちりめんと出会ったのは、2011年のこと。知人から、丹後ちりめんの生地と生産現場を見て欲しいとの話があり、数軒の機屋さんに足を運んだ。そして、後にfiltangoの織りを依頼することとなる機屋さんを訪れたとき、そこで見た白生地に衝撃を受けた。「表面のシボの凹凸で浮かび上がる模様の表情の美しさや、シルクの洗練された質感に驚きました。世界中の糸や生地を見てきたという自負がありましたが、どこにも見たことのない生地が、生まれ故郷の昔ながらの機屋さんの一角にあったんです。宝物を見つけた気持ちでした」と、当時の興奮を振り返る。



「織り」を依頼している機屋さんを尋ねる。
「織り」を依頼している機屋さんを尋ねる。

 
 


洋服への取り入れやすさ、水洗いできる扱いやすさを追求したものづくり

filtangoの商品づくりを始めるとき「デニムと白いTシャツに似合うストールにすること」「家庭で水洗いできること」をコンセプトとした。ニットデザインにおいても、時代に対応した素材を作り、デザイン、使い易さ共に日常に馴染むものを作ってきた山根さんは、丹後ちりめんにもそういった機能性を持たせることでより気軽に手に取ってもらいたいと考えた。「せっかく、確かな織りの技術と絹100%という贅沢な素材があるのだから、特別な日だけではなく、いつでも身につけて欲しい」。そういった想いから、本当の意味で“日常使い”ができる丹後ちりめんの商品づくりを目指した。
 filtangoの商品は「織り」「色出し」「染め」「縫製」の全行程が丹後地域内で行われている。それぞれを手がける職人さんは皆、山根さんが直接工場へ足を運び、コミュニケーションを取りながら関係を培ってきた匠たちだ。洗えるようにするために、糸の使い方や織り方は職人さんと何度も試行錯誤した。ニットデザイナーとして職人さんと共に作り上げていた頃と同じく、想いを形にするための会話を丹後の織り職人とも重ねることで、表現とそれを表せるだけの高い技術が融合し、少しずつ理想の形に近づけていった。
 山根さんが丹後ちりめんの生地について特別だと感じていることは、「織り」と「柄の表現」の技術が両立されていることだ。織りのデータに少し変化を加えると、途端に柄やちりめんの風合いの魅力が無くなってしまう程の繊細さ。「昔の人が緻密に考えて丹後ちりめんの技術を確立してきたことを思うと、本当にこの生地の魅力を伝えたくなります」と、山根さん自身も丹後ちりめんが生み出される技術の虜になっている。



 
 


染める色を決める「色出し」を行う山根さん。
染める色を決める「色出し」を行う山根さん。


商品の一番のこだわりである、「色」

山根さん自身が担う「色出し」の行程は、特に気を遣い、大切にしている。「首元に巻いたときに、顔色がパッと美しく映える色味。そして、素晴らしい丹後ちりめんの生地の模様と風合いを最大限に引き出す色の濃さ。その繊細なバランスが大切です。あとは、私の感覚です」と山根さんは微笑む。
 実際に色出しの工程を見せて頂くと、その言葉の通りに山根さんは次々と色を作り出す。小皿に数種類の染料を注ぎ、水で薄めながら、筆で染料を混ぜ合わせ、小さく切った生地片を染める。「色出しをするとき、それぞれの染料の分量などはあまり決めていません。あえて、筆も洗わずに混ぜていきます。偶然できた色の方が、案外良かったりするんですよね」と話しながら手際良く、繊細に、たくさんの色を作っていく。
 染める色が決まると、染色する工場へ色味のサンプルを持参する。染め上がりの色味は、必ず山根さんの目で直接確認しに行く。ほとんど分からない程の僅かな違いでも、思った通りの色味になっていなければもう一度お願いし、妥協はしない。「本当に、想いに応えてくださる職人さんに恵まれていると思います」。



色出しで染められた、少しずつ色味の違う生地片。
色出しで染められた、少しずつ色味の違う生地片。


美しく高品質な丹後ちりめんと日々を過ごすきっかけに

 丹後ちりめんが、単に歴史がある地元の伝統産業だからという以上に、紛れもない「良いもの」であるということを山根さんは強調する。「丹後ちりめんに携わる職人さんたちは本当に真面目にものづくりをされています。安いものをたくさん買うという価値観ではなく、こだわりと商品に向き合う想いの詰まった高品質なものを手に取って、生活に彩りと豊かさを添えて欲しいと思います」。四季を問わず日常に取り入れられるfiltangoの特別な逸品を、ぜひ身に纏って出掛けてみてはいかがだろう。



 
 


 ふるさと納税に出品の、コーラルピンクが美しいストール。
 ふるさと納税に出品の、コーラルピンクが美しいストール。