特集

2023.02.06

「ジビエは美味しい」を伝えたい 日本インパクト

 「高級食材」と言われつつも、昨今、獣害対策や自然食などさまざまな観点から注目を集めている「ジビエ」。京丹後では、鹿や猪による農作物への被害が年々増加傾向にある。その対策として、地元の猟師たちが年間数千頭を狩猟しているが、捕獲される鹿や猪の多くは廃棄されるのが現状だ。

 そのような中、日本インパクト株式会社は、独自に培ってきた狩猟技術や解体・熟成技術を活かして地元で獲れた鹿や猪の肉の製品化に成功した。「ジビエは上手に処理できないと美味しくない。初めて食べる時が素人さんの処理した肉だと、“不味い野生の肉"という先入観やイメージがつきがちですが、処理さえ上手くすればこんなに美味しい肉があるのかと思っていただける。私はジビエのイメージを変えて行きたいですし、美味しく食べられるものを世の中に出していきたいんですよ」と語るのは、自身も地元の猟友会に所属し、その活動を通して有害獣の有効活用に目を向けるようになったという同社代表取締役 金志繁実さん。商品開発に込める想いについてお話を伺った。






日本インパクト株式会社 代表取締役 金志繁実さん
日本インパクト株式会社 代表取締役 金志繁実さん






原点にある、ものづくりを支えたいという想い


 実は、株式会社日本インパクトの軸となる主な事業は物流事業。京丹後市大宮町に本社を、舞鶴市、京都市に支社・営業所を置き、倉庫内商品管理、検品作業、梱包・全国発送までを担っている。扱う品目は日用品から企業製品まで多岐に渡る。「私の原点は、家業だった呉服店にあります。丹後地域で白生地が織られ、染色が施されて反物になり、仕立てられてお客様の手に届く。そういったものの流れを見て、物流を含めたものづくりの完成までに携わりたいと思うようになり、平成5年に立ち上げたのが当社です」と金志さん。

 最初に始めたのは、相談を受けたことをきっかけにスタートしたレターセット。目標にしていた通り、デザイン、印刷、セット梱包(便箋・封筒・シール等)、配送まで全ての工程を自社で実現し、物流の基礎を確立した。そんな中、より大きな規模での物流が主流となっていくことで運送業者へのニーズが変化し、少量なもの、急を要するものへの対応にコストがかかるようになった。その時代の流れを見て、そのニーズに対応できる物流を実現すべく、他社商品の物流も受けようと現在の物流事業をスタートした。

 そんな中、金志さんはプライベートの趣味として狩猟免許を取得した。当時は、鹿や猪は保護対象の野生動物だったため、鴨やキジなどの野鳥を仲間とハンティングしていた。保護により個体数が増えすぎた鹿や猪が、人が住むエリアまで降りてくるようになったのは、ここ15年ほどのこと。有害獣となり狩猟が認められるようになってから、「捕獲した鹿や猪を有効活用できないか」と金志さんは考えるようになった。






日本インパクト株式会社の本社倉庫。巨大な倉庫に多種多様な製品が保管されている。
日本インパクト株式会社の本社倉庫。巨大な倉庫に多種多様な製品が保管されている。





 





狩猟から、ジビエの商品開発へ


 ものづくりや物流を始めた原点があるからこそ、趣味の延長とはいえ"命あるものを狩猟している"という気持ちがいつもあったと話す金志さん。ジビエの商品開発を始めた頃は、まだ「ジビエ」という言葉が現在ほど浸透していなかった。「野生の肉の安全性が心配」「ジビエ特有の臭いがあり食べづらい」という声が多かった時代に、それを払拭できるものを作るために動き始めた。

 始めた当初は、都市部のレストランを中心にさまざまな業者に営業に行ったものの、本当に売れなかった。食べるものという認識が薄かったり、扱ったことがあるシェフが少なかったりと、受け入れてもらうまでには時間を要した。

  「丁寧にさばいたジビエが美味しいのは自分が一番良く知っている。一流のシェフならば、必ずわかってもらえるはずだ」と金志さんは根気よく掛け合った。そうしている中で、「使ってみようか」と言ってくれる店舗が現れ始めた。「自分たちの肉を『美味しい』と食べてくれたシェフの顔は忘れられないですよ。やっと受け入れてもらえたという気持ちがしましたね」と金志さんは当時を振り返る。美味しさはシェフの間でも口コミで広がり、現在では首都圏、京阪神で10店舗のレストランに提供している。できるだけ途切れることなく供給し、今ある客先を大切にできるように体制を整えている。






 





狩猟を行なう金志さん。オフィスとは違い、緊張と期待の混ざったハンターの表情を見せる。
狩猟を行なう金志さん。オフィスとは違い、緊張と期待の混ざったハンターの表情を見せる。






鮮度よく、美味しく食べられるための商品へのこだわり


 「肉も魚も野菜も鮮度が美味しさに繋がりますが、ジビエでそれを追求するためには罠のかけ方から始まります」と金志さん。しかし当時からプロがいた訳ではなく、全て狩猟仲間との試行錯誤で技術を培ってきた。くくり罠と呼ばれる種類の罠を使用し、かかった鹿の首元を銃で撃って仕留める。鮮度を保ち臭いを防ぐためには、血抜きのタイミングが遅れないように素早く行なうことが必要だ。「鹿が暴れてしまって体を打ったりすると、鬱血が始まってそこから鮮度が落ちていく原因になるんですよ」と教えてくれた。

 獲ったあとは捌きの工程に移る。大きな鹿を捌くところを見学させて頂いたが、簡単そうに行なうスピードと迷いのない手際の美しさに驚いた。「多い日には一日に10頭近く運ばれてきますから、一日中捌いていることもありますよ」と狩猟・捌き共にベテランの北村さんは話す。捌いた後の肉は冷蔵庫で1週間熟成され、その後に部位ごとにブロックに精肉。もう一つ驚いたのは、捌いたり精肉したりしている現場を見学している間、肉の臭いが全くと言っていいほど気にならなかったことだ。それは肉そのものの鮮度が守られている証拠。「野生動物は獣臭い」というイメージが覆された瞬間だった。






 丁寧に確実に、素早く精肉していく。
丁寧に確実に、素早く精肉していく。





 ふるさと納税に出品の「京丹後産ジビエのすきやき風鍋(鹿肉とすきやきタレのセット)」
ふるさと納税に出品の「京丹後産ジビエのすきやき風鍋(鹿肉とすきやきタレのセット)」






ふるさと納税への出品と、京丹後への想い


 ふるさと納税に出品しているのは、家庭で気軽にジビエを楽しめる「京丹後産ジビエのすきやき風鍋(鹿肉とすきやきタレのセット)」。鹿肉500g(250g×2パック)に、すぐに使えるすきやきタレ(2パック)が付いているもの。「鹿肉は1.5mmのスライスで、煮込みすぎずにしゃぶしゃぶくらいの感覚で柔らかいまま食べるのがおすすめです。臭みのない鹿肉を楽しんでいただけます」と金志さん。カロリーが低めでタンパク質、鉄分、ビタミンを多く含む鹿肉は、ヘルシーな食事を心掛けたい人、特にスポーツをしている人や栄養を取りたい子どもたちにも試してみてほしい。

 美味しいジビエを知ってほしいと話す金志さんは、「ジビエを含め、食が豊かな京丹後から美味しいものを届けたいです。それがこの街の素晴らしさを知ってもらうきっかけの一つになり得るからです」と語る。ジビエが今後、より身近なものになり丹後の特産の一つになれば、雇用が生まれる。都市部のイメージが強い物流事業もこの地で叶えてきたように、ジビエの商品開発についてもそういった将来像を描いている金志さん。美味しいジビエを楽しんで京丹後の風土を感じ、京丹後の地を訪れてみてほしい。