特集

2020.11.24

"京たんくろ和牛"を京丹後のブランド牛へ

 京丹後市網野町を拠点に"京たんくろ和牛"を飼育する、農事組合法人 日本海牧場。その名の通り、日本海を望む広大な山地で牝牛20頭を放牧し、潮風に乗って運ばれる海のミネラルたっぷりの牧草を食べて育っている。代表理事 山﨑高雄さんは、昭和60年に京丹後市に戻り、父から畜産業を受け継いだ。そして近年では6次産業化を実現し、ハンバーグやソーセージなどの加工品の製造・販売を行なうとともに、道の駅 丹後王国 食のみやこ(京丹後市弥栄町)内のレストラン「山と海with日本海牧場」に牛肉の提供を行なっている。現在に至るまでの道のりと、今後の展望を伺った。



海を望む放牧地。海からの潮風が爽やかで、牛たちも気持ちよさそうだ。
海を望む放牧地。海からの潮風が爽やかで、牛たちも気持ちよさそうだ。


毛並みの美しい日本短角種の牝牛。
毛並みの美しい日本短角種の牝牛。


父から受け継いだ土地と畜産業。循環型の生産に取り組む

 昭和60年、前職を辞めて帰郷し、山﨑さんの父が5年前に開設した牧場で業務の手伝いをするようになった。「私の父は『もったいない』が口癖だった」と話す山﨑さん。親子2代に渡って、日本海牧場が掲げる「循環型社会」の実現に向け、地域のスーパーで出る野菜くずや、食品加工場で出る食品廃棄物などの未利用資源を活用した飼料を使用。持続可能な運営と、牛肉の味の両立を模索してきた。
 当初は乳牛を飼育していたが、ダニに起因する牛の病気が問題となったことをきっかけに、肉牛の飼育へと移行した。肉牛の品種を決めるため岩手県に行った際、放牧で飼育されていた和牛間交雑種(日本短角種と黒毛和牛の雑種)を実際に見て、自社の放牧地の環境に合うと判断。また、そのステーキを実際に食べてみて、しっかりとした食べ応えのある味と食感の赤身肉に山﨑さんは感動した。「この品種を地元で育てて、少しずつ特産物生産を根付かせていきたい。将来に続く産業にできるはず」と強く思い、和牛間交雑種の飼育を決めた。



牧場を任されている社員の前田さんは、山﨑さんの昔からの同級生。牛に優しく声をかけ、日々の体調にも目を配る。
牧場を任されている社員の前田さんは、山﨑さんの昔からの同級生。牛に優しく声をかけ、日々の体調にも目を配る。


餌の改良が肉質の変化へと繋がった。日本海牧場が目指す味へ

 山崎さんは、餌によって牛肉の味や質が大きく変わると知ったことをきっかけに、餌の改良に着手。あらゆる牧場や専門家を訪ねて回った。「得た情報に基づいて色々と試しましたが、いつも大事にしていたのは数値などのデータをもとに状態を管理するということです」と、山崎さん。人間と同じように、食べたもので牛の体つきや肉質が変化することがはっきりと数値で示されることにより、自分が感動したときの味を再現できると確信した。
 当時から、美味しい牛肉とされていたのは牛枝肉取引規格(※1)により"A5ランク"などと表される"サシ(赤身の間にある脂肪)が多く、美しく入っているもの"だった。それは基本的に見た目の評価であり"味"の評価ではないことから、山崎さんはその評価だけにこだわることはせず、自分たちが目指す「旨味のある赤身肉」の味に近づけるよう研究を続けた。
 すると、京都府内で油揚げを製造・販売している企業から、「製造過程で出て廃棄しているおから醤油粕を牛の飼料として与えてみては」と提案があった。おから醤油粕は栄養価が高く、牛に余計な脂肪が付きにくい食材。早速いつもの餌に混ぜて与えて育てると、今までで一番旨味成分であるアミノ酸が多く、食感も程よく柔らかく食べ応えある牛肉ができた。「偶然もらった提案でしたが、試してみてよかった。本当に運が良かったと思う」と、山崎さんは当時を振り返る。その後も現状に満足することなく、餌や牛の過ごす環境に配慮し、改善し続けてきた。



柔らかさとともに旨味たっぷりの「京たんくろ和牛」。
柔らかさとともに旨味たっぷりの「京たんくろ和牛」。


ふるさと納税に出品されている「京たんくろ和牛を使ったハンバーグ(デミグラスソース入)」。柔らかくもしっかりした歯応えがある。※生クリームは商品に付きません。
ふるさと納税に出品されている「京たんくろ和牛を使ったハンバーグ(デミグラスソース入)」。柔らかくもしっかりした歯応えがある。※生クリームは商品に付きません。


牛肉のブランド化を目指して

 農業や水産業を主として第一次産業が盛んに行なわれてきた京丹後市の地。山﨑さんは自社の畜産業もその中の一つとして拡大していきたいと考える。「肉質の改善を重ね、もっと知ってもらい食べてもらえるブランド牛にしたい。そうなれば、京丹後で多くの雇用を生むこともできるはず」と、山﨑さん。加工品の製造・販売も進めており、今後の商品開発にも積極的だ。特に、肉の食感を大切に作ったという「京たんくろ和牛を使ったハンバーグ(デミグラスソース入)」が人気で、子どもから大人まで親しまれている。自身が生まれ育った地域だからこそ、環境と安全に配慮した生産を行ないたいと語る山崎さん。日本海牧場が見せる今後の進化から目が離せない。



「京たんくろ和牛の旨味をぜひ味わってみてください」
「京たんくろ和牛の旨味をぜひ味わってみてください」


農事組合法人 日本海牧場のお礼品はこちらから