特集

2023.03.29

乾物屋のつくる、美味しく安全な干しいも

 さつまいも本来の甘さを味わえ、健康的なおやつとして老若男女問わず人気がある干しいも。日本で作られ始めたのは江戸時代まで遡り、当時は保存食としての役割を担っていたという文献が残っている。

 創業明治37年より、歴史ある山城屋ブランドで「京きな粉」や「京いりごま」、「京七味」をはじめとする高品質な乾物を製造・販売してきた株式会社真田は、2019年11月に京丹後工場を竣工。従来の商品の製造に加え、2022年からこれまでの高い技術を生かして同社として初めての試みである干しいも作りをスタートした。

 真田では従来、開封後すぐに食べることができる自社商品がなく、何か作れないかと考えていたときに、京丹後で干しいも用のさつまいもが生産されているという情報を得たことがきっかけだった。「既に大きな市場があった干しいもの製造に関しては"後発組"であるという意識もありましたが、歴史ある乾物屋らしいオリジナリティと、京都産という付加価値のある干しいもを作れば多くの人に手に取ってもらえるはずと思い、挑戦を始めました」と話す野村さんに、同社の干しいもの魅力について伺った。






左から主力商品の「京きな粉」「京いりごま」「京七味」
左から主力商品の「京きな粉」「京いりごま」「京七味」





株式会社真田 京丹後工場 野村さん
株式会社真田 京丹後工場 野村さん










美味しさと安全性を兼ね備えた、乾物屋の干しいも


 乾物は、乾燥させて水分量を減らすことで、カビの発生や食べ物の腐敗を抑えて長期保存ができることに本来の意味がある。現在人気のある干しいもは、水分量が多くしっとり柔らかいスイーツのような干しいもだが、水分量が多いということは保存が可能な期間も短くなる。同社はあくまでも本来の乾物の目的である長期保存ができるという点を大切に、水分量を抑えながらも柔らかさと甘さを感じられる干しいもを目指した。

 真田の干しいもの特徴は、美しい黄金色をした姿、程よい柔らかさを残した食べ応えのある食感、そしてなんといっても、さつまいもの甘味を最大限に引き出した味わい。これらを実現させるため、製造スタートから地道な努力が行われてきた。

 「各社それぞれの正解を求めて商品を作っていますから、私たちは乾物屋としての正解を模索したいと思いました」と野村さん。






原料のさつまいも「紅はるか」は、京丹後市内の農家で育ったものを使用。
原料のさつまいも「紅はるか」は、京丹後市内の農家で育ったものを使用。





 





試行錯誤を重ねた干しいも製造の道のり


 使用するさつまいもは全て、京丹後市内の約10軒の農家で生産されたものだ。栄養たっぷりな土で大きく育ったさつまいもを10月頃に収穫し、温度と湿度を管理した自社の保管庫で2〜3ヶ月熟成させる。熟成させることで糖化が進み、甘さと味わいも増す。その後、1月〜3月に干しいもを製造する。1サイクルで加工するさつまいもの量はなんと600kgで、2日間かけて完成する 。

 干しいもの製造工程は至ってシンプル。さつまいもを洗い、蒸す。その後皮を剥き、均等な厚みに切り分け乾燥させて、翌日袋詰めをするという流れだ。しかし一見シンプルに見えるその工程を見学していると、端々に工夫と技術が織り込まれていた。






蒸したてのさつまいもからは蜜が染み出している
蒸したてのさつまいもからは蜜が染み出している





 一本一本手作業で、素早く丁寧に確実に皮を剥いていく
一本一本手作業で、素早く丁寧に確実に皮を剥いていく





 







 中でも、蒸す工程の温度と時間が重要な味の決め手となる。同じサイズの中でも太さによって絶妙に蒸し加減が変わってきたり、蒸し器の稼働からの経過時間によっても調整が必要で、培ってきた加減方法で蒸していく。「蒸しの行程が後の行程に全て響いてきます。硬すぎても柔らかすぎても乾燥具合や味わいを損ねてしまうので、とても繊細なんですよ」と製造管理者の池部さんが教えてくれた。

 蒸したさつまいもの皮を剥く作業では、企業秘密だが剥いた後の変色を防ぐ工夫がなされている。これは作業を繰り返す中で発見したノウハウで、それがあるからこそ美しい黄金色の干しいもとなる。「剝いた後のさつまいもの美しさはもちろん、道具の使いやすさや少人数でいかに効率良く作業できるかも一人一人が意識を持って意見を出し合いました」と野村さんは振り返る。

 また、干しいもの食感を左右する乾燥方法にも特徴がある。水分量が多い干しいもでは低温乾燥で時間をかけて水分を飛ばしていく方法をとるが、同社では高い温度設定で短時間で乾燥させる加熱乾燥という方法をとっている。安全性を守りながらも柔らかさを残す適度な乾燥方法が、乾物屋ならではのこだわりだ。






 均一な厚みにスライスしたさつまいもを、くずさないよう一枚ずつ剥がして並べていく。この作業が最も繊細。
均一な厚みにスライスしたさつまいもを、くずさないよう一枚ずつ剥がして並べていく。この作業が最も繊細。





 乾燥させて出来上がった干しいも。
乾燥させて出来上がった干しいも。





まだまだ挑戦の途中


 「安定的な品質で製造できるようになりましたが、これで100%完成したとは思っていません。もっと良くしたいし、ノウハウを生かして新しいものを作りたいという想いがあります」と野村さんは話す。将来の構想にあるのは、紅はるかを超える干し芋に適したさつま芋の開発。丹後の生産者、関係各所と連携して、京都オリジナルのさつま芋ブランド品の開発を行うことで、京都産であることを付加価値としてプラスできないかということがある。製造方法の中で出せる違いが少ないからこそ、長期的な視点で商品開発に取り組みたいと考えている。より良いもの、より面白いものを作りたいという姿勢は、同社のこれまでのものづくりのマインドを受け継ぐものだ。

 さらに、農家や加工を担当する従業員との距離の近さも京丹後での生産の特徴だという。「『良いものをつくりたい』という目的に向かって、それぞれができる仕事を考えて役割を果たす。コミュニケーションが密で、人との繋がりに一体感を感じられる京丹後の土地柄が美味しい干しいもの生産に繋がっていると思いますね」と野村さんは微笑む。






ふるさと納税に出品の「京都産干しいも」
ふるさと納税に出品の「京都産干しいも」







干しいもを京丹後の特産品にして、将来へ繋げたい


 実は丹後の出身ではない野村さん。大阪市から赴任してくる以前からも度々出張で京丹後に訪れていたところ、新しくできた京丹後工場の責任者として丹後で暮らすことになった。「丹後へ通ううちに、食と自然が豊かなこの地域に愛着が湧きました。今ではこの地域が若い人にも選ばれる場所になってほしいと思っています」と野村さん。同社の事業を成長させ、雇用を増やすことに繋がれば地域内外の若者にとって魅力的な職場にすることができると考える。

 また、地域環境を考慮した取り組みにも積極的な同社。農家が販売用にできないいわゆる規格外品のさつまいもの有効利用にも協力したり販売方法、を助言したりしている。干しいもの製造工程で生まれるさつまいもの皮は、単に捨てるのではなく丹後地域内の契約農家に堆肥として提供することで循環農業にも貢献している。地域環境への配慮や食材を消費するだけではなく、地域全体として持続可能な生産ができることを目指す。

 丹後地域を想う生産者と製造者が手をとりつくる優しい干しいもを、ぜひ日常のおやつやおでかけのお供にしてみてほしい。心身が喜ぶ味わいを楽しんで頂けるはず。