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2022.02.22

丹後ちりめんを新しい形で広めたい “たてつなぎ”のものづくり

「丹後ちりめんを若い人たちに知ってほしいと思うようになったのは、地元にUターンして、家業で丹後ちりめんの生産に携わるようになってからでした」と、“たてつなぎ”を運営する田中
栄輝さんと、臼井 勇人さんは話す。“たてつなぎ”は、丹後ちりめんを使ったオーダーメイドのインテリアパネルやポーチを生産する、2020年に生まれた丹後発のブランド。生地を織る中で数千本にものぼる縦糸を手作業で結び繋いでいく“縦繋ぎ”という工程からブランド名を付けた。

 丹後ちりめんは、丹後地域において300年もの間生産されてきた、絹の強撚糸から生まれる「シボ」を特徴とする高級な着物の白生地だ。現代における着物離れの現状がある中、たてつなぎの商品には伝統ある丹後ちりめんをより広く、特に若い世代に気軽に手に取ってもらえるよう、使用する生地や製造工程にも工夫が散りばめられている。自分たちならではの発想を等身大に反映させてものづくりを行なうたてつなぎのお二人に、お話を伺った。


 
大善株式会社 専務取締役 田中栄輝さん(生地の染めを担当)
大善株式会社 専務取締役 田中栄輝さん(生地の染めを担当)

 


「やってみたい」という想いから生まれた、たてつなぎ


 たてつなぎの商品は、企画・デザインを株式会社二条丸八の森山怜子さん、生地を臼井織物株式会社の臼井勇人さん、染めを大善株式会社の田中栄輝さんがそれぞれ担当している。3社の企業の垣根を超えて互いの強みを活かし、商品開発から製造、営業、販売までをこなす。

 彼らが出会ったのは2019年、ある京都府の事業に3人が参加していたことがきっかけだった。当時、田中さんは前職を退職し地元へUターンして家業に携わるようになって、「全国的にはもちろん、地元住民でさえ若い人たちは"丹後ちりめん"をよく知らない」という現状を実感していた。若い世代にも気軽に手に取ってもらえる商品をどうにか作れないかと考えていた田中さんは、臼井さんにその想いを打ち明けたところ、臼井さんもそれに共感し、一緒に何かやってみようと決心。その後、デザイナーの森山さんに声をかけて意見交換をしたことでたくさんアイデアが湧き、具体的に動き始めた。「やってみようと決めてからは早くて、すぐに試作に取り掛かりました」と田中さんは当時を振り返る。


 
右:原画の手書きイラスト 中:インテリアパネル 左:ポーチ
右:原画の手書きイラスト 中:インテリアパネル 左:ポーチ

 
臼井織物株式会社 臼井勇人さん(生地の織りを担当)
臼井織物株式会社 臼井勇人さん(生地の織りを担当)

 


自分たちの「あったらいいな」を叶えることで、同世代から共感の反応


 たてつなぎの商品開発は自分たちの目線が起点。「幼い子どもがいるような家庭で喜ばれるものがいいな」と、同じ境遇の若者世代をターゲットにしている。製造工程や生地を工夫することで「汚れや傷みを気にせず、家庭で洗える」「若者世代でも購入しやすい価格帯」という消費者ニーズと、「丹後ちりめん特有のシボの風合いを活かす」という作り手の想いを共に実現してきた。

一番の特長は、オーダーメイドの商品を1点から作ることができること。一般的に大きなメーカーでは1点ものなど少量のオーダーはコストがかかり難しいが、たてつなぎでは生地の生産、デザイン、染め、縫製など全ての工程を自社や丹後地域内の織物業者の連携を活かして生産することで実現した。また、依頼者側も使いたい画像データを送るだけで良いという手軽さも魅力だ。

 ポーチなどの商品は、気軽に日常使いしたいという想いを叶えるために、強度が高く、家庭で洗えるポリエステル製の丹後ちりめん生地を採用している。「丹後ちりめん特有の“シボ”がポリエステル生地でも綺麗に出るよう、撚糸工程や織り方を何度も試しました。風合いと求める強度を両立させるのは難しかったですね」と臼井さん。試作を繰り返した末に出来上がった生地に手描きのイラストを染めてみると、まるでクレヨンで描いたような柔らかく優しい、独特な風合いが生まれた。手触りもさらさら、ふわふわとしていて気持ちがいい。丹後ちりめんの質感が最大限生かされる生地が完成した。

 依頼者とのやり取りはメッセージアプリLINEを使用していて、お互いにスムーズに、より親しみを込めたコミュニケーションができているという。「商品をお届けすると、お客様からの感想をメッセージで頂くことが多く、直接声を聞けることもありがたいです。喜んで頂けている声もたくさん届いて、嬉しいですね」と、依頼者からの感想を大切にしたものづくりを実現している。


 
 ちりめん生地に染められたイラストは、可愛らしく優しい雰囲気。
 ちりめん生地に染められたイラストは、可愛らしく優しい雰囲気。

 
 
 

 

特に人気があるのは、インテリアパネル。イラストや写真をパネルにして飾ることができる。

色褪せに強いため飾る場所を選ばず、お子様や家族の節目の記念品やプレゼントにも選ばれている。

他にも、結婚式のウェルカムボードや、店舗の看板に利用したいというお客様も増えてきている。

パネルの基礎となる中の木枠にもこだわり、京丹後市内で製造。可愛らしさがありながら、高級感も感じられる。




 
臼井織物の織機は、カーテン等のインテリアや洋服に使われる、広幅の生地用の機械。
臼井織物の織機は、カーテン等のインテリアや洋服に使われる、広幅の生地用の機械。

 



欠かせない地域の人々との連携


 絹織物生産の長い歴史と文化が根付いている丹後地域は、新しい挑戦をするのにとても良い環境なのだそう。それぞれが勤める会社はもちろん、丹後ちりめん関連の他社であっても、知識や知恵を快く分けてくれる職人さんたち。丹後ちりめんの新たな価値を模索し、国内外に向けてその価値を発信し続けている先輩たち。「どんなに小さなことでも、聞きに行けば丁寧に教えてくれますし、応援してくれる。その歴史からすると丹後ちりめんに携わって日が浅い私たちにとっては、本当に心強い先輩方ですね」と田中さんは微笑む。

 また臼井さんは、色々な生地のアレンジにも挑戦していきたいと考える。丹後ちりめんは、生地の「縮み」で生まれるシボを生かすもの。その縮みで生まれる表現を応用し、新しい格好良さ、モードな雰囲気などを生み出せると考え、日々試作や工夫を重ねる。たてつなぎのメンバーの新たな感覚を、丹後ちりめんの一つの要素として加えることで、今までになかった表現、提案に挑戦する。


 
染めの工程は大型の専用インクジェットで行なう。「生地がずれないよう慎重にセットする工程は、一番重要です」
染めの工程は大型の専用インクジェットで行なう。「生地がずれないよう慎重にセットする工程は、一番重要です」

 
可愛らしいオリジナルポーチ。丹後地域の企業とのコラボ商品も。
可愛らしいオリジナルポーチ。丹後地域の企業とのコラボ商品も。

 


伝統を、先代から自分たち、自分たちから次世代へ繋ぐ


 地域におけるたてつなぎの役割を、「丹後ちりめんの入り口」と二人は表現する。「ブランド名は、言葉の響きが好きでこの名前を付けましたが、地域や伝統に触れながらものづくりをしている中で、技術や伝統を自分たちの世代や、もっと先の世代へ繋いでいかなくてはという想いが強くなっています。それを感じて頂ける商品を作って、ブランドに親しんでほしいですね」とお二人は話す。伝統を大切に想いながら、次世代へ丹後ちりめんを伝えるたてつなぎの商品を、ご自宅用に、贈り物に、ぜひ手に取ってみてほしい。